2016年03月16日 (水)

節税スキーム「逓増定期保険」の検証(富裕層オーナー企業向け)

急激な解約返戻金の増加を利用して、法人から個人への資産移転ができるという「逓増定期保険」
「保険商品を使って、税額を低くする」という保険テクニックとしてセールスされているようですが、
保険会社の説明に不明な点があるとのご相談を受け、仕組みを分析してみました(プロ向け)。

 

1.逓増定期保険スキームの概要

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法人税は、法人の利益に課税され、個人所得税は、個人所得に課税されます。
オーナー企業では、オーナーの「手残り」に着目すると、法人税でも所得税でも、税金であることに変わりはなく、「合計税額」を最低にすることが最適化と言えます。
このようなオーナー企業を対象とした節税施策の1つに「逓増定期保険スキーム」があります。

「逓増定期保険スキーム」は、一定のタイミングを境に解約返戻金が急増する保険(逓増定期保険)を、
A.解約返戻金が低いタイミングまでは法人で契約し、
B.解約返戻金が増加する直前のタイミングで、オーナーが法人から時価で買い取り、
C.解約返戻金が増加した後のタイミングで保険契約を解約する
という方法で行います。
このスキームのポイントは、「給与所得」を「一時所得」(解約したときの保険解約益の税額が50%オフとなる優遇税制)に転換する点にあります。

下記は、実際にあったとある保険会社の商品の解約返戻金と返礼率の関係です。

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保険期間は23年間で保険料は年間3.8百万円、
1年目~4年目までの解約返戻金は著しく低く、
4年目においても2.7百万円、返戻率は17.85%となっています。
(返戻率=解約返戻金÷払込保険料総額で算出)
しかし、5年目には解約返戻金が17.8百万円、返戻率が94.35%に急増しています。

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この商品の活用方法ですが、
まず、4年目まで法人で契約し、その後、個人が時価(解約返戻金2.7百万円)で買取をします。
その後、5年目に解約返戻金が17.8百万円となったタイミングで契約を解除します。
これにより、法人から個人へ利益移転を図るそうです。
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2.逓増定期保険スキームの効果

「逓増定期保険スキーム」は、所得(給与所得)の一部を一時所得(たまたま得られる利益)に振り替えることで、税制優遇を受けられることにポイントがあります。
何もしなければ給与所得として課税されるところ、結果的に税制優遇を受けれる形になります。

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3.保険会社の説明検証

この商品のメリットについては、複数の保険会社の担当によって説明が異なっていたので、検証しました。

誤解①:法人税の削減効果がある ⇒ 誤り

法人税の削減効果についてはありませんでした。
この誤解は、保険料が半分損金算入になることから生じると推測しますが、
契約をしなかった場合、余剰利益は、給与所得としてオーナーに逃がすため、契約することでむしろ損金は半減してしまいます。
ただし、契約買取時に保険積立金と買取額との差額が雑損失として計上されるため、
今回のシュミレーションでは、法人税へのインパクトはありませんでした。
(時間価値や税制改正は考慮していません)


誤解②:法人から個人へ合法的に資金移転を図れる ⇒ 半分正解

これは半分正解ですが、完全に正解とは言えませんでした。
「資金移転」という観点では、節税メリットの一部を個人へ資金移転とはなりましたが、
最終年度の「買取」という行為によって、法人にも資金プールが作られることになります。
シュミレーションの結果、「逆に」手残りとしては個人よりもむしろ法人の方が多い結果となりました。


誤解③:節税効果 = オーナー社長へのメリット ⇒ 誤り

節税効果を中心に説明されるようですが、解約返戻金が100%を下回るため、節税効果=オーナー社長へのメリットとはなりません。
返戻金が100%でないということは、払込保険料のうち一部は保険会社に回ることを意味します。
逓増定期保険は通常の死亡保障が付いているため、死亡リスクに備えて保険会社が保険料を取る必要があります。
結果的に、節税額とキャッシュ手残りは異なります。
節税額が100%そっくりそのまま 個人への資金移転となるという説明は誤りでした。
「この契約の効果は、一時所得の優遇を適用できる分が節税額である」という説明は誤りとなります。

誤解④:社会保険料が削減になる ⇒ 正しくない

給与所得は社会保険税の対象ですが、一方、一時所得は労働対価ではないため 社会保険税の対象ではありません。
ここだけを切り取ると、社会保険料が削減になるというのは正しいのですが、
「逓増定期保険スキーム」が適用対象となるような高所得者層においては、
既に上限(年金税は月額65万円/健康保険料は月額120万円)に達しています。
このため、スキームが適する高所得者は、このメリットは受けられません。

 

4.節税効果=個人所得税の削減分

結論①:節税額は、所得税の所得区分を給与所得から一時所得に転換する50%オフ分であ

節税額は、所得税の所得区分が「給与所得」から、「一時所得」へ転換することで得られる優遇制度(50万円差し引いて、さらに50%オフ)となります。
これは効果として検証されました。

結論②:節税額は、法人と、個人と、保険会社で山分けとなる

誤解③でも記載しましたが、解約返戻金が100%未満である以上、保険会社の取り分があり、税務メリットを100%法人と個人とで享受することはできません。
さらには、法人と個人で山分けという結果になります。
本来、政府が所得税として徴収するはずだった▲A万円を 
個人が+B百万円、
法人が+C百万円、
保険会社が+D百万円と山分けしたような形になります。

 

5.メリットが受けられる損益分岐所得区分


解約返戻金が100%でないため、所得税率が低い場合には、逓増定期保険を契約することでむしろデメリットとなる場合があります。
メリットとデメリットの分岐点は、保険会社の運用成績や税率改正により影響を受けますが、
今回のシュミレーション、解約返戻金が94.35%のとある商品の前提の下では、
所得税/住民税合わせて30%で、所得水準としては700万円が分岐点となっていました。

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下記は、税率と単純投資利益率の関係を表したものです。

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最高税率に達した場合には、平均利回りは7.1%にもなります。

6.改めてこのスキームは得か損か?

【シュミレーションの前提】
・毎年の支払保険料:3.8百万円
・払込期間:5年間
・トータル払込保険料金額:18.8百万円
・法人税率:34.3%、所得税&住民税率:50%
【最終の損得】
・法人の手残り:1.8百万円
・個人の手残り:1.1百万円
・法人&個人合計の手残り額:2.8百万円
・運用利率は年6.0%
=(手残り額2.8百万円÷5年)÷平均投資額(18.8百万円÷2) ※時間価値は考慮していません。
【結論】
約6.0%という利回りだけを見ると、株式運用利回りと比較しても高い利回りです。
ただし、この保険期間5年の間に「所得が高いままであり、支払が続けられない」ということが必要となります。

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7.
この逓増定期保険スキームが適する人/業種

このスキームが適するオーナーは限られています。
①安定した業種であること(スキームは途中でやめられないため、安定した資金支払能力が必要)
②既に個人所得税が最高税率に達している(又は近しい)
適するのは、高額所得者の開業医さんなどでしょうか…
保険の基本は、「保障」ですので、税制のエアーポケットを活用するというのは保険の本来の使い方ではありません。
また、前提として、保険の買取が「一時所得」という整理も、いつ「雑所得」として改正されるか分からないという一発アウトのリスクも抱えています。

本来とは違った用途で使用すると、自然法則としては、どこかに弊害が出てくるので、決して、積極的には進められるものではありません。
しかし、
①投資金額全額分の預金があり、
②1,000万円以上の所得が継続して見込まれる場合で、
③投資金額を全額負担できる(途中でやめることはできないため)方には、大きなメリットが得られることは事実です。
最後までお読み頂きありがとうございました。
ご参考になれば幸いです。

 

シュミレーションの参考エクセル資料は下記となります。

逓増定期保険シュミレーション.xlsx

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